1on1のROI計算|投資対効果の試算方法と10名チームの例

「1on1に時間をかける価値はあるのか」と経営会議で問われたとき、感覚ではなく数字で説明したい——。
そのときに使えるのが、投資対効果(ROI)の考え方です。
ただし、1on1のROIは「1on1を実施したら離職が何人減る」と直接証明できるものではありません。離職や生産性には、給与・配置・採用・上司交代・組織変更など多くの要因が影響します。
本記事では、1on1のROIを「投下コスト」と「金額換算した便益」に分け、前提条件を明示したシナリオとして試算する方法を解説します。
10名チームのモデルケースを使いながら、年間コスト、離職回避を便益に置く場合の計算、感度分析、損益分岐点まで整理します。
この記事でわかること
- 1on1のROIを計算する基本式
- マネージャー・部下双方の時間コストを金額換算する方法
- 離職回避を便益として扱うときの前提条件
- 10名チームを例にしたROIのシナリオ試算
- 0〜1名の感度分析と損益分岐点の考え方
- ROIを経営会議で説明するときの注意点
目次
1on1のROIとは|まず「実績」と「試算」を分ける
ROI(Return On Investment)は、一般に次の式で計算します。
ROI =(便益 − 費用)÷ 費用 × 100%
たとえば年間140万円のコストに対して、450万円の便益があると仮定すれば、
(450万円 − 140万円)÷ 140万円 × 100 = 約221%
です。
ただし、ここで重要なのが「実績ROI」と「シナリオROI」を分けることです。
導入前に「離職を0.5名分回避できたらどうなるか」と置くのは、意思決定のためのシナリオ試算です。
一方、導入後に離職者が1名減ったとしても、その1名すべてを1on1の成果と断定することはできません。給与改定、採用基準、配置変更、管理職研修など別の要因も影響するためです。
本記事では、まず経営判断に使えるシナリオROIを中心に説明し、実績値に置き換える際の注意点もあわせて整理します。
1on1そのものの効果や外部研究の読み方は、1on1の効果はある?エンゲージメント・離職・生産性をデータで検証をご覧ください。
1on1のROIを構成する2要素|コストと便益
1on1のROI計算は、基本的に次の2要素へ分けます。
| 要素 | 主な項目 | 考え方 |
|---|---|---|
| コスト | マネージャーの時間、部下の時間、ツール費、研修費など | 1on1を実施・運用するために追加で発生する費用を積み上げる |
| 便益 | 離職回避による損失回避、生産性改善など | 1on1が寄与したと合理的に置ける範囲だけ金額換算する |
コスト側は比較的計算しやすい一方、便益側は前提によって結果が大きく変わります。
そのため、ROIの数字そのものより、「どの前提を置いたか」を明示することが重要です。
【コスト編】1on1の年間投下コストを計算する
まず、1on1に使う時間を人件費へ換算します。
基本式は次のとおりです。
年間時間コスト = 1回の時間 × 年間回数 × 対象人数 × 時間単価
時間単価は、簡易的には
年収 ÷ 年間労働時間
で概算できます。
ここでは計算例をわかりやすくするため、年間労働時間を1,800時間と仮定します。実際に試算するときは、自社の年間所定労働時間や人件費計算ルールへ置き換えてください。
モデルケースの前提
- マネージャー:1名、年収600万円
- 部下:10名、平均年収450万円
- 1on1:週1回30分
- 年間実施回数:48回
- 年間労働時間:1,800時間と仮定
- ツール費・研修費:このモデルでは含めない
マネージャー側の年間時間は、
30分 × 10名 × 48回 = 240時間
です。
時間単価は、
600万円 ÷ 1,800時間 = 約3,333円
なので、
240時間 × 約3,333円 = 約80万円
となります。
部下側は、1人あたり年間24時間、10名で合計240時間です。
部下の平均時間単価を、
450万円 ÷ 1,800時間 = 2,500円
とすると、
240時間 × 2,500円 = 60万円
です。
したがって、このモデルの年間時間コストは、
80万円 + 60万円 = 約140万円
となります。
実際の社内試算では、必要に応じてツール利用料、1on1研修費、運用担当者の管理工数なども加算します。
また、年収だけでなく会社負担の社会保険料や福利厚生費などを含む「総人件費」を使えば、より厳密な試算になります。
【便益編】離職回避をどう金額換算するか
1on1の便益として比較的金額換算しやすいのが、離職によって発生するコストの回避です。
離職すると、採用費、採用・引き継ぎにかかる社内工数、欠員期間、新任者が立ち上がるまでの生産性差などが発生します。
ただし、「離職コストは年収の○倍」と一律に置くのではなく、自社で発生する項目を積み上げて計算する方が精度は高くなります。
離職コストの内訳と計算方法は、離職コストの計算方法完全ガイドで詳しく解説しています。
本記事のモデルケースでは、説明を単純化するため、
1名の離職コスト = 450万円
と仮定します。
これは「一般的な正解」ではなく、あくまでモデル上の仮定値です。
Gallupのエンゲージメントデータを、そのまま1on1の効果率にしない
従業員エンゲージメントの研究では、高エンゲージメント組織と低エンゲージメント組織の離職率などに差があることが報告されています。
しかし、これは「1on1を実施した結果、離職率が同じ割合だけ下がる」という意味ではありません。
1on1以外にも、上司のマネジメント、報酬、配置、仕事内容、評価制度など多くの要因が関係します。
そのため、外部研究の改善率をそのまま「1on1による離職回避人数」に変換するのは避けます。
自社の効果測定方法は、1on1の効果測定方法|KPIと定量・定性データの取り方をご覧ください。
10名チームでROIを試算|0〜1名の感度分析
ここまでのモデル条件を使って、ROIを試算します。
前提は次のとおりです。
- 年間1on1コスト:140万円
- 1名あたりの離職コスト:450万円と仮定
- 生産性向上などの便益:今回は含めない
ここで「1on1によって年1名の離職を必ず防げる」とは置きません。
代わりに、1on1が寄与したと見込む離職回避人数を0〜1名まで変えて、ROIがどう変わるかを見る感度分析を行います。
| 離職回避の仮定 | 便益 | ROI |
|---|---|---|
| 0名 | 0万円 | -100% |
| 0.25名相当 | 112.5万円 | 約-20% |
| 0.5名相当 | 225万円 | 約61% |
| 1名 | 450万円 | 約221% |
「0.25名」「0.5名」は、実際に社員を分割して数えるという意味ではなく、複数年や複数チームで見た期待値・シナリオ値です。
この条件では、
140万円 ÷ 450万円 = 約0.31名
なので、年間約0.31名相当の離職回避便益があれば、金額上の損益分岐点になります。
つまり、ROI221%は「年間140万円のコストに対して、1名分450万円の離職コスト回避を1on1の便益として置いた場合」の試算結果です。
1on1一般のROIが221%という意味ではありません。
全国の離職率は「便益の根拠」ではなく参考値として使う
厚生労働省「令和7年(2025年)雇用動向調査」では、常用労働者全体の年間離職率は13.7%でした。
ただし、この全国平均を10名チームへ機械的に当てはめて「毎年1〜2名辞める」「そのうち1名を1on1で防げる」と置くのは適切ではありません。
業種、雇用形態、企業規模、年齢構成などが異なるうえ、10名程度の小規模チームでは1人の増減だけでも離職率が大きく動くためです。
ROI試算では、自社の過去の離職人数・離職理由・離職コストを優先し、全国平均は参考値として使うのが基本です。
生産性向上をROIに含める場合の注意点
1on1では、優先順位の整理、役割認識のすり合わせ、業務上の障害の共有などを通じて、生産性改善につながる可能性があります。
ただし、生産性は1on1以外の影響を強く受けます。
そのため、
- 売上増加分をそのまま1on1の便益とする
- 外部研究の生産性向上率を自社売上へそのまま掛ける
- 離職回避便益と生産性便益を根拠なく両方フルで加算する
といった計算は避けます。
生産性をROIへ含める場合は、対象業務と指標をあらかじめ決め、1on1との関係を説明できる範囲に限定する方が安全です。
根拠が弱い場合は、金額換算せず「非金銭的な効果」として別枠で示しても構いません。
ROIを経営会議で説明する3つのポイント
1. 前提条件を最初に見せる
「年間コスト140万円」「離職コスト450万円」「離職回避0〜1名のシナリオ」といった前提を、ROIの数字より先に示します。
前提を変えればROIも変わることを明示した方が、試算の透明性は高まります。
2. 1つの数字ではなく感度分析で見せる
「ROI221%」だけを提示すると、「本当に1名防げるのか」という議論で止まります。
0名、0.25名、0.5名、1名など複数シナリオを示せば、
- どこが損益分岐点か
- どの程度の改善なら投資に見合うか
- 最悪ケースではどの程度の損失か
を経営側が判断できます。
3. 試算と実績を分け、定期的に更新する
導入前はシナリオで判断し、運用後は実際の実施率・有用感・離職状況などを確認します。
ただし、離職者が減った場合も、他施策の影響を確認したうえで1on1の寄与を評価します。
1on1の運用品質に課題がある場合は、1on1のやり方完全ガイド|目的・進め方・頻度・準備を実践解説もあわせて確認してください。
ROI試算でやりがちな4つの失敗
1. 部下側の時間コストを入れない
1on1ではマネージャーだけでなく部下も時間を使います。双方の時間を計算に含めます。
2. 離職回避人数を根拠なく1名と置く
1名回避をモデルケースとして置くこと自体は可能ですが、それを「期待される実績」のように扱わないことが重要です。0〜1名など複数シナリオで示します。
3. 外部研究の改善率を1on1へそのまま転用する
エンゲージメントと離職・生産性の関係を示した研究は、1on1単独の因果効果を示すものではありません。
4. ROIを一度計算して終わる
試算は意思決定の入口であり、運用後は実績データで前提を更新することが重要です。
離職対策全体の中で1on1をどう位置づけるかは、【2026年最新】離職防止・離職対策の完全ガイド|原因別の具体策と進め方で解説しています。
CIY®才能カルテで1on1の運用を支援する
CIY®才能カルテでは、社員一人ひとりの特性をもとに、上司向けサマリー、1on1での質問候補、仕事の任せ方などを確認できます。
1on1を継続しやすくし、対話後の記録を次回へつなげるためのマネジメント支援として活用できます。
ただし、才能カルテを導入しただけでROIが自動的に発生したり、離職回避人数を確定できたりするものではありません。
ROIを評価する場合は、本記事で整理したコスト・便益の前提と、実際の効果測定データを組み合わせて判断します。
まとめ|ROIは「前提が見える試算」にする
1on1のROIは、
ROI =(便益 − 費用)÷ 費用 × 100%
で計算できます。
ただし、重要なのは計算式より前提条件です。
本記事の10名チームの例では、年間時間コストを140万円、離職コストを1名450万円と仮定した場合、1名分の離職回避を便益として置くとROIは約221%になります。
一方、離職回避が0.5名相当なら約61%、0名なら-100%です。
「1on1のROIは221%」ではなく、「この前提なら221%になる」と説明することが、経営判断に使える試算の条件です。
まずは、自社の実際の1on1時間、参加人数、総人件費、離職コストを入力し、複数シナリオで損益分岐点を確認してください。




