1on1の効果測定方法|KPIと定量・定性データの取り方

「1on1を続けているが、本当に成果が出ているのか説明できない」
——1on1を導入した企業で、経営者・人事・マネージャーが次に直面しやすいのが、この問いです。
1on1は実施回数だけを追っても、対話の質や組織への影響まではわかりません。
本記事では、1on1の効果を「行動・状態・成果」の3層で捉え、KPI・サーベイ・記録データを使って改善につなげる方法を整理します。
なお、離職率や生産性などの成果は1on1以外の要因にも左右されます。本記事では、単純な前後比較だけで「1on1の効果」と断定せず、実務で使える測定方法とデータの読み方を解説します。
この記事でわかること
- 1on1の効果測定で追うべきKPI
- 効果を「行動・状態・成果」の3層で整理する方法
- 定量データ・定性データの取り方
- ベースラインがない場合の測定方法
- 測定結果を1on1の改善につなげる4ステップ
- 「1on1のおかげで改善した」と早合点しないためのデータの読み方
目次
なぜ1on1に効果測定が必要なのか|実施率だけでは成果がわからない
1on1を導入すると、まず把握しやすいのは「何回実施したか」です。
たとえば週1回30分の1on1を10名のチームで実施すれば、マネージャーは月20時間前後を対話に使うことになります。
しかし、実施率が高いだけでは、
- 本人にとって役立つ対話になっているか
- 上司との認識ズレが減っているか
- 必要な支援につながっているか
- 組織指標に変化が出ているか
までは判断できません。
効果測定の目的は、1on1を評価することではなく、「どこを変えれば運用がよくなるか」を判断することです。
測定することで、「そもそも開催できていない」「開催はできているが本人の有用感が低い」「状態指標は改善しているが成果指標にはまだ変化がない」といった違いを分けて考えられます。
1on1全体の設計から見直したい場合は、1on1のやり方完全ガイド|目的・進め方・頻度・準備を実践解説もあわせてご覧ください。
1on1の効果を3層で捉える|行動・状態・成果の測定フレーム
1on1の効果を「離職率が下がったか」だけで判断すると、改善点がわかりにくくなります。
そこで本記事では、測定指標を「行動」「状態」「成果」の3層に分けて整理します。
| 層 | 確認すること | 指標例 |
|---|---|---|
| 行動 | 1on1が設計どおり運用されているか | 実施率、リスケ後の実施率、次回アクション確認率 |
| 状態 | 本人の実感や上司との関係に変化があるか | 1on1有用感、相談しやすさ、上司からの支援実感、成長実感 |
| 成果 | 組織・業務の結果に変化があるか | 離職率、欠勤、残業時間、目標達成率など |
この3層は、因果関係が自動的に証明されるものではありません。
「1on1を実施する → 本人の状態に変化が出る → 組織成果へ波及する」という仮説を置き、どの段階に変化があるかを確認するための整理方法です。
たとえば実施率が高くても1on1有用感が低ければ、頻度を増やすより対話内容を見直す方が優先です。一方、有用感や相談しやすさは改善していても離職率が変わらない場合、給与・配置・業務負荷など別の要因も確認する必要があります。
定量データの取り方|1on1で追いたいKPI例
KPIは多く設定するほどよいわけではありません。
まずは「行動・状態・成果」から、自社の目的に合う3〜5個程度へ絞ると運用しやすくなります。
| KPI例 | 計算・取得方法 | 見るポイント |
|---|---|---|
| 1on1実施率 | 実施回数 ÷ 予定回数 × 100 | 制度として実行できているか |
| リスケ後の実施率 | 延期後に実施できた回数 ÷ 延期件数 × 100 | キャンセルが実質的な中止になっていないか |
| 1on1有用感 | 「今回の1on1は役立った」等を5段階で定点観測 | 実施回数ではなく本人側の実感を見る |
| 相談しやすさ・支援実感 | 同じ設問を月次・四半期などで継続測定 | 上司との関係・支援の変化を見る |
| 離職率などの成果指標 | 人事データを部署・期間単位で確認 | 1on1以外の施策や組織変化も併記する |
状態指標は、エンゲージメントサーベイやパルスサーベイと組み合わせても構いません。
サーベイの設計と運用はエンゲージメントサーベイの設計と活用で詳しく解説しています。
成果指標として離職率を見る場合は、外部平均との比較だけで判断しないことも重要です。
厚生労働省「令和7年(2025年)雇用動向調査」では、常用労働者全体の年間離職率は13.7%、一般労働者は11.4%、パートタイム労働者は19.9%でした。
ただし、自社との比較では雇用形態・業種・企業規模などの違いを踏まえ、外部平均は参考値として使うのが適切です。
定性データの取り方|サーベイ・自由記述・対話テーマを活用する
定量データだけでは、「なぜ数字が変わったのか」まではわかりません。
そこで、定性データを組み合わせます。
最も始めやすいのは、短いパルスアンケートです。
たとえば、
- 今回の1on1は役に立った
- 相談したいことを話せた
- 次に何をするかが明確になった
といった設問を5段階で聞き、必要に応じて自由記述を加えます。
ただし、毎回の1on1後に長いアンケートを実施すると回答負担が大きくなるため、1〜3問程度に絞る、月1回だけ取るなど、自社の頻度に合わせて調整します。
1on1の記録を分析する場合も、会話内容をそのまま大量に集める必要はありません。
「業務」「キャリア」「役割」「チーム」「コンディション」など、必要な範囲でテーマを分類しておくと、組織全体の傾向を確認しやすくなります。
一方、本音・健康・家庭事情・人間関係などセンシティブな内容は、効果測定のために詳細を集約しすぎないよう注意します。閲覧権限、保存場所、利用目的を事前に決めてください。
1on1記録の取り方は、1on1議事録の取り方|書くべき5項目とテンプレートで解説しています。
効果測定の実践4ステップ|ベースライン設定から改善まで
ステップ1:目的とベースラインを決める
最初に、「1on1で何を変えたいのか」を決めます。
たとえば「相談しやすさを上げる」「上司の支援行動を増やす」「早期離職を減らす」などです。
そのうえで、導入前の値が取れる場合はベースラインとして記録します。
すでに1on1を始めていて導入前データがない場合は、取得できる過去の人事データを確認し、なければ現在値を基準として今後の推移を追う方法でも構いません。
ベースラインがない状態で、後から「1on1によって○%改善した」と断定しないことが重要です。
ステップ2:3層からKPIを3〜5個に絞る
すべての指標を追う必要はありません。
行動・状態・成果から、自社の目的に関係する指標だけを選びます。
例として、
- 行動:1on1実施率
- 状態:1on1有用感、相談しやすさ
- 成果:対象部署の離職率
のように設計できます。
ステップ3:測定頻度とデータ利用ルールを決める
行動指標は月次、状態指標は月次〜四半期、成果指標は四半期〜年次など、指標の動きやすさに合わせて設定します。
これは固定ルールではありません。1on1の頻度、対象人数、離職者数などに応じて調整してください。
同時に、サーベイや1on1記録を「誰が見られるか」「何に使うか」を決めます。
ステップ4:結果を見て1on1の運用を変える
測定の目的は、レポートを作ることではありません。
たとえば、
- 実施率が低い → スケジュール・頻度を見直す
- 実施率は高いが有用感が低い → アジェンダ・質問・上司の進め方を見直す
- 状態指標は改善しているが成果が動かない → 1on1以外の制度・配置・業務負荷も確認する
というように、数字から次の改善行動を決めるところまでを1サイクルにします。
測定結果の読み方|「1on1のおかげ」とすぐに断定しない
効果測定で特に注意したいのが、相関と因果の混同です。
たとえば、1on1導入後に離職率が下がっていても、同じ時期に給与改定、採用基準の変更、管理職研修、組織再編などを実施していれば、1on1だけが原因とは判断できません。
そのため、結果を見るときは、
- 導入前後の推移を見る
- 可能であれば部署・対象グループ別にも確認する
- 同時期に行った他の施策や組織変更を記録する
- 定量データと社員のコメントをあわせて読む
という見方が有効です。
効果測定は「1on1の因果効果を完全に証明する」ためではなく、改善の仮説を立て、データで確かめ続けるために行うと考えると運用しやすくなります。
1on1そのものの効果や研究データの読み方は、1on1の効果はある?エンゲージメント・離職・生産性をデータで検証で整理しています。
効果測定でやりがちな失敗と注意点
効果測定では、次のような運用に注意します。
1. 成果指標だけで早期判断する
離職率や生産性は、母数や時期によって大きく変動します。短期間の上下だけで「1on1に効果がある・ない」と判断せず、行動・状態指標もあわせて確認します。
2. サーベイを個人評価へ直結させる
「上司に相談しやすいか」「1on1が役立ったか」といった改善用サーベイを、本人や上司の査定へそのまま使うと、回答が歪む可能性があります。
1on1改善用の測定と正式な人事評価は、目的・閲覧者・利用方法を分けるのが基本です。
3. 対話ログを集めすぎる
分析のために本人の本音や私的な相談まで詳細に集約すると、1on1で話しにくくなる可能性があります。必要最小限のテーマ・合意事項を中心に扱います。
4. 測りっぱなしにする
データを集めても、頻度・アジェンダ・質問・上司の支援行動が変わらなければ測定の意味は薄くなります。
形骸化している場合の立て直し方は、1on1の形骸化を防ぐ7つの方法|原因と立て直し方も参考になります。
チーム全体で測定できる状態をつくる
効果測定を続けるには、特定のマネージャーだけが独自の方法で管理するのではなく、最低限の指標と運用ルールをそろえることが重要です。
一方で、すべての1on1を同じ内容にする必要はありません。
測定する項目は共通化しつつ、対話のテーマや質問は本人に合わせて調整するという分け方が現実的です。
組織全体では「実施率」「有用感」「相談しやすさ」などを共通指標として追い、個々の1on1では本人の状況に合わせてテーマを変えます。
離職対策全体の中で1on1をどう位置づけるかは、【2026年最新】離職防止・離職対策の完全ガイド|原因別の具体策と進め方をご覧ください。
CIY®才能カルテで1on1の運用を支援する
CIY®才能カルテでは、社員一人ひとりの特性をもとに、上司向けサマリー、1on1での質問候補、仕事の任せ方などを確認できます。
また、1on1の記録を残し、次回の対話へつなげる運用にも活用できます。
ただし、ツールを導入するだけで1on1の効果を測定できるわけではありません。
「何を改善したいか」「どのKPIを見るか」「サーベイや記録をどう扱うか」という測定設計と組み合わせて運用することが重要です。
まとめ
1on1の効果測定では、離職率や生産性だけを見て判断しないことが重要です。
本記事のポイントは3つです。
第一に、「行動・状態・成果」の3層で指標を整理し、自社の目的に合うKPIを3〜5個に絞ること。
第二に、定量データだけでなく、1on1有用感や自由記述などの定性データを組み合わせ、「何が変わったか」と「なぜ変わったか」を一緒に見ること。
第三に、導入前後の変化だけで因果関係を断定せず、他施策や組織変更も確認しながら、測定結果を次の1on1改善へつなげることです。
まずは、自社が1on1で変えたいことを1つ決め、現在取得できるデータからベースラインを作るところから始めてください。




