部下から退職を申し出られたら?上司・人事の対応と引き止め方

部下から突然「退職したいです」と言われたとき、上司は何と返せばよいのでしょうか。
「今辞められると困る」とすぐに引き止めるべきか、人事へ共有するべきか、それとも本人の意思を尊重して受け入れるべきか。退職の申し出を受けた直後は、上司・人事ともに判断を急ぎやすい場面です。
しかし、最初にやるべきことは説得ではありません。本人の意思と退職理由を確認し、会社として改善できること・できないことを切り分けたうえで、引き止めを検討するかを判断することです。
本記事では、部下・社員から退職の申し出を受けた企業側に向けて、上司の初動、人事との連携、引き止め判断、面談の進め方、理由別の対応、避けるべきNG対応、退職を受け入れる場合の実務まで整理します。
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この記事でわかること
- 部下から退職を申し出られた直後に上司が取るべき初動
- 「退職の相談」と「明確な退職意思」の違い
- 上司と人事の役割分担
- 引き止めを検討するか判断する4つの基準
- 退職理由別の対応と、面談で確認したいこと
- 会社側が避けたいNG対応
- 引き止めず退職を受け入れる場合の社内対応
目次
まず結論|部下から退職を言われても、その場で説得しない
退職の申し出を受けた直後に、「待遇を変える」「異動させる」「考え直してほしい」と条件を出すのは避けた方が安全です。
まずは次の5点を確認します。
- 本人の話を遮らずに聞く
- 「相談」なのか「退職意思の表明」なのかを確認する
- 退職希望時期や、すでに決まっている事情があるか確認する
- 上司だけで条件変更を約束しない
- 必要な情報を人事へ共有し、次の対応を決める
最初の会話で結論を出す必要はありません。上司の役割は、その場で退職を撤回させることではなく、本人の意思を正確に把握して会社として判断できる状態をつくることです。
最初に確認|「退職の相談」と「退職意思の表明」は分けて考える
部下から「辞めようか迷っています」と相談された場合と、「退職します」と明確に意思を伝えられた場合では、会社側の対応が異なります。
| 状態 | 例 | 会社側の基本対応 |
|---|---|---|
| 退職を迷っている・相談段階 | 「今の仕事を続けるか迷っている」「転職も考えている」 | 背景を聞き、改善可能な課題があれば対応を検討する |
| 退職意思が固まりつつある | 「退職したいと考えている」「退職時期を相談したい」 | 意思・希望時期を確認し、人事と対応を協議する |
| 明確な退職意思の表明 | 「○月○日で退職します」「退職届を提出します」 | 無理に撤回を迫らず、雇用契約・就業規則を確認して手続きを進める |
特に、明確な退職意思が示されている場合に「会社が認めるまで辞められない」と扱うのは避ける必要があります。
会社・上司・人事が知っておきたい退職の基本ルール
退職の引き止めを考える前に、会社側は「退職は会社が許可するもの」とは限らないことを押さえておく必要があります。
期間の定めのない雇用契約について、大阪労働局は、民法第627条に基づき、労働者は解約の申入れをすることができ、会社の同意がなければ退職できないというものではないと案内しています。
一方で、有期雇用契約では取り扱いが異なります。また、就業規則や個別の契約条件によって確認すべき事項もあります。
上司だけで法的な判断をせず、退職意思が示されたら人事・労務へ共有し、雇用契約・就業規則・手続きルールを確認するのが基本です。個別事情で判断が難しい場合は、社会保険労務士や弁護士などの専門家へ確認してください。
上司と人事の役割分担|誰が何をする?
退職の申し出を受けたとき、直属上司だけで対応を抱え込まないことが重要です。
| 担当 | 主な役割 |
|---|---|
| 直属上司 | 本人の話を聞く、退職理由・意思・希望時期を確認する、日常業務やチーム状況を共有する |
| 人事・労務 | 就業規則・雇用契約の確認、面談方針の整理、条件変更の可否、退職手続き、記録管理を行う |
| 部門責任者 | 配置・業務分担・役割変更など、部門として実行できる選択肢を判断する |
| 経営・決裁者 | 報酬・役職・重要な配置変更など、例外的な条件変更が必要な場合に決裁する |
特に給与・役職・異動などを提案する場合、直属上司がその場で約束すると、後から実現できず信頼を損なうおそれがあります。
退職を引き止めるべき?会社側の4つの判断基準
退職の申し出があったからといって、すべての社員を引き止める必要はありません。
「重要人材だから辞めさせない」という発想だけでなく、次の4点を確認します。
1. 本人に再検討の余地があるか
本人が「もう意思は変わらない」と明確に伝えている場合、繰り返し説得するのは避けます。一方、「環境が変われば考えたい」といった意思がある場合は、会社として対応可能な選択肢を検討できます。
2. 退職理由は会社側で改善できるか
業務量、配置、上司との関係、役割、評価説明など、会社側で改善余地のある原因かを確認します。
本人の転居、家族事情、明確なキャリア転換など、会社側だけでは解決できない理由もあります。
3. 提案した改善策を本当に実行できるか
「異動させる」「給与を見直す」「業務量を減らす」と伝えても、実行できなければかえって不信感を強めます。
引き止めのために魅力的な条件を出すのではなく、会社として承認・実行できる選択肢だけを提示することが重要です。
4. 他の社員との公平性・制度との整合性を説明できるか
退職を申し出た社員だけに例外的な昇給・昇格を提示すると、他の社員との公平性や人事制度との整合性が問題になることがあります。
カウンターオファーを検討する場合は、本人だけでなく組織全体への影響も含めて人事と判断します。
退職の引き止め面談|上司・人事の5ステップ
引き止めを検討する場合も、面談の目的を「説得」にしないことが重要です。
ステップ1:本人の意思と経緯を聞く
最初は、退職を考えた経緯と現在の意思を確認します。
「なぜもっと早く言わなかったのか」と問い詰めるのではなく、「退職を考えるようになった背景を、話せる範囲で教えてもらえますか」と聞きます。
本人がすべての退職理由を話すとは限りません。理由を無理に聞き出すより、本人が話した範囲を尊重します。
ステップ2:退職理由の優先順位を整理する
退職理由は一つとは限りません。給与・待遇、人間関係、仕事内容・キャリア、業務量・働き方など、複数の要因が重なっていることがあります。
「どれが一番大きいですか」「会社側で変えられるとしたら、何が最も影響しますか」と確認し、優先順位を整理します。
ステップ3:改善可能なこと・難しいことを分ける
本人の希望をすべて叶える必要はありません。会社として実行できること、すぐにはできないこと、制度上できないことを切り分けます。
その場で判断できない場合は、「人事と確認して○日までに回答します」と次の期限を明確にします。
ステップ4:社内承認後に具体的な選択肢を提示する
業務分担、配置、役割、働き方、評価説明など、承認された選択肢だけを提示します。
条件変更を提案する場合は、「いつから」「誰が」「何を変えるか」まで具体化します。
ステップ5:その場で撤回を迫らない
選択肢を示した後も、本人に即答を求めない方がよいでしょう。
会社側が提案した条件を踏まえて本人が判断できる時間を設け、再面談の日程と次の手続きを明確にすることで、双方が冷静に判断しやすくなります。
退職理由別|企業・上司・人事が検討したい対応
給与・待遇への不満
まず「金額が低い」という言葉の背景を確認します。市場水準との比較、評価への納得感、役割と報酬の不一致など、原因は異なります。
給与改定を約束する前に、評価基準、給与テーブル、他社員との公平性、決裁権限を人事側で確認します。
上司・人間関係への不満
直属上司本人が原因になっている可能性がある場合、その上司だけで面談を完結させないことが重要です。
本人の希望に応じて、人事や別の責任者が話を聞けるルートを用意します。配置転換だけでなく、指示方法・役割分担・チーム運営の改善で対応できるかも検討します。
仕事内容・キャリアへの不満
本人が今後経験したい仕事や役割を確認し、自社で現実的に提供できる選択肢があるかを整理します。
「将来は希望を叶える」と曖昧に約束せず、具体的な時期や条件を示せない場合は正直に伝えます。
業務量・働き方への不満
単に「もう少し頑張ってほしい」と伝えるのではなく、担当業務、残業、締切、チーム内の負荷偏在を確認します。
誰の仕事をどう組み替えるかまで決めないと、本人だけの負担軽減が他のメンバーへ転嫁されることがあります。
家庭・健康・転居など会社だけでは解決しにくい理由
本人が希望する範囲で、休職制度、勤務形態、勤務地など利用可能な制度を案内することはできます。
ただし、本人が退職を選んでいる場合は無理に理由を掘り下げたり、引き止めたりせず、手続きを支援します。
会社側が避けたい退職引き止めのNG対応
1. 「受理しない」「辞めさせない」と伝える
退職の法的な扱いは雇用契約によって異なりますが、期間の定めのない契約では、会社が同意しなければ退職できないというものではありません。
退職届を受け取らないことで解決しようとせず、人事・労務で適切な手続きを確認します。
2. 情や罪悪感で引き止める
「君が辞めたらチームが困る」「後任が決まるまで辞めないでほしい」と、本人へチーム事情を背負わせる対応は避けます。
必要な引き継ぎは会社側の体制として整理します。
3. 上司の裁量だけで昇給・昇格・異動を約束する
その場で魅力的な条件を出しても、社内承認を得られなければ実行できません。人事制度や決裁ルールを確認してから提示します。
4. 退職理由を否定・評価する
「その理由ではどこに行っても同じ」「考えが甘い」といった発言は、本人との関係を悪化させます。
引き止め面談では、本人の選択の正誤を評価するのではなく、会社側で改善可能な課題があるかを確認します。
5. 退職の申し出を必要以上に広く共有する
本人の退職意向はセンシティブな情報です。対応に必要な範囲で共有し、チームへの公表時期・内容は本人とも確認しながら決めます。
引き止めない場合|人事・上司が進める退職対応
退職を受け入れる場合も、会社側にはやるべきことがあります。
- 退職日と最終出勤日を確認する
- 就業規則・雇用契約に沿って必要な手続きを案内する
- 引き継ぎ対象と担当者を決める
- 有給休暇や貸与物などの実務を人事・労務で確認する
- チームへの共有時期・伝え方を本人と調整する
- 必要に応じて退職理由を今後の組織改善に活かす
労働者から退職時の証明書を求められた場合、使用者には遅滞なく交付する義務があります。詳しくは厚生労働省「確かめよう労働条件」をご確認ください。
キーパーソンの退職後は、残った社員の業務負荷や不安にも注意が必要です。詳しくは離職連鎖を防ぐ方法|キーパーソン退職時の組織対応で解説しています。
引き止めが成立した後|約束した改善策を実行する
本人が退職を再検討し、残る選択をした場合は、引き止め成立をゴールにしないことが重要です。
面談で合意した改善策について、少なくとも次の3点を残します。
- 何を変えるか
- 誰が担当するか
- いつまでに実施・確認するか
配置、業務量、評価説明など、約束した内容が実行されなければ、本人の不信感を強める可能性があります。
その後の1on1では「退職しないか」を確認し続けるのではなく、合意した改善策が機能しているか、本人が仕事を進めやすくなっているかを確認します。
退職の申し出が出る前に|日常の離職防止へ戻す
退職の申し出が起きるたびに引き止めるだけでは、組織全体の離職問題は改善しません。
退職後は、個人を責めるのではなく、採用時の期待値、オンボーディング、上司との対話、評価、キャリア、業務負荷など、組織側で改善できる原因がなかったかを振り返ります。
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CIY®才能カルテで日常のマネジメントを支援する
CIY®才能カルテは、退職を申し出た社員を説得するためのツールではありません。
社員一人ひとりの特性をもとに、1on1での問いかけ、仕事の任せ方、フィードバックなど、日常のマネジメントを考えるための情報を提供します。
退職を切り出されてから引き止めるのではなく、普段から本人に合った関わり方を考え、困りごとや成長テーマを話せる状態をつくるための材料として活用できます。
まとめ|退職を申し出られたら「説得」より先に、意思確認と社内連携
部下から退職を申し出られたとき、上司がその場で結論を出す必要はありません。
企業側で押さえたいポイントは次の5つです。
- 本人の話を聞き、相談か明確な退職意思かを確認する
- 人事・労務へ共有し、契約・就業規則を確認する
- 退職理由が会社側で改善可能かを整理する
- 引き止める場合も、実行可能な選択肢だけを提示する
- 退職を受け入れる場合は、本人と残留社員の双方をフォローする
引き止めの目的は「退職を撤回させること」ではなく、本人の意思を尊重しながら、会社として改善できる課題があるかを確認し、適切な判断と手続きを行うことです。




